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月の栞

本の扉を開けて色々な物語の旅に出かけませんか? 本の虫『つきの』が、あなたの本の旅のお手伝いをします。

「 クリス、よく聞きなさい。迷うのは人間として仕方ない。
だが、一度決めたら、最後まで信じることをやめてはいけない。
人生は迷いの中から信じるべきものを探していく作業だ。
父さんはクリスが強くなるのを信じている」

 出典:『少年検閲官』北山猛邦  より


今回は、北山猛邦さんの「少年検閲官」をご紹介します。

この本は……
書物が駆逐される世界。旅を続ける英国人少年クリスは、不可解な事件に遭遇する。
そんな中、クリスはミステリを検閲するために育てられた少年エノに出会うが……。
「少年検閲官」シリーズの第1弾です。

まず独特の奇妙なパラレルワールドの世界観に引き込まれます。
津波や洪水などで国々は浸蝕されつつあり、書物は禁止されています。
死が溢れすぎていて、死から逃げ続けた挙句、書物によって(特にミステリ小説など)受ける野蛮な思想の影響を受ける事の無いように一斉焚書により、あらゆる凶悪『犯罪』は撲滅されたということに”なっている”世界。
安全な情報だけを流すラジオ。感情を失ったかのような大人たち。

クリスの父は潜水艦乗りでしたが、航行中に何らかの衝撃を受け沈没。
そのまま乗組員達は海底で閉じ込められて、ゆっくりと死んでいきました。
そのわずかな時間、家族たちと無線で話すことができ、その父が遺した言葉が冒頭の言葉です。

クリスは父が記憶していた『ミステリ』の名作を聞いて育ちました。
その中に登場する『探偵』に憧れながら。

そうして父が亡くなった後、失われたミステリーを探す旅に出て、殺人事件に遭遇することになります。
それも犯人は『探偵』?

ホラーやダークファンタジーのようでもある雰囲気からミステリ部分を忘れがちになりますが、謎ときの
パートになると、それまでの伏線や話の流れが、特殊な世界観を含めて一つの真相に帰結していく様は衝撃であり見事でした。

続巻もあるようなので、ここで出会った少年たちのその後も、この世界のなりゆきも気になります。
この奇妙な世界観の魅力を是非味わってみてください。

「少年検閲官」

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「 絶対に正しいことなんかこの世にはないのですと美弥子は云った

 出典:『今昔百鬼拾遺「天狗」』京極夏彦  より


今回は京極夏彦さんの『今昔百鬼拾遺』三部作の最新作「天狗」のご紹介です。

この作品は…
京極堂シリーズのスピンオフ作品になります。
妹であり【稀譚月報】記者・中禅寺敦子「鬼」「河童」に続き、呉美由紀、今回登場の篠村美弥子と共に女性たちの失踪と死の連鎖の謎に挑みます。

京極堂の蘊蓄を楽しみにしている方には少々もの足りない感じもあるかもしれません。
今回は「男尊女卑」や「家制度」という旧弊な問題が軸になっているのですが、それは今の時代よりももっと簡単にはいかないことだったろうと思われます。

だからこそ、多くを割いて文中で語られる美由紀と美弥子の問答に色々なことを考えさせられます。
今の時代背景で語られるのではなくて、昭和のあの時代で語らせることで、事件への怒り、そして犯人の愚かさが、やり切れない思いと共に強く心に刻まれるのです。

京極堂シリーズではいつも心に深く響く”言葉”があるのですが、この作品でも沢山ありました。
是非、読んで確かめてみていただきたいと思います。

『今昔百鬼拾遺』三部作

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「 2年前、オレはベトナムに完敗した。
 連日の猛暑に気力と体力を奪われ、人々の逞しさに圧倒され、棺桶のような寝台列車のシートでうち震え、ベトナムの菌にやられて腹を下し、ウニのトゲを3回も踏んで黒豚のような悲鳴を上げ、最後はスリに有り金を全部やられた 」

 出典:『ベトナム怪人紀行』ゲッツ板谷  より


しょっぱなからガツンときます(笑)
今回は、ゲッツ板谷さんの「ベトナム怪人紀行」をご紹介します。

この本は…
不良デブ(ゲッツ板谷)と兵隊ヤクザ(鴨志田穣)【この当時、西原理恵子さんの夫だった鴨ちゃん】が「絶対降参しない国」ベトナムで個性の強い”怪人”たちと勢いだけで突き進みタイマン勝負するという人気紀行シリーズ第二弾です。※カバーイラストと文中の漫画西原さん写真鴨ちゃんが撮っています。

わたしはゲッツさんの特に紀行文が大好きで前作の「タイ怪人紀行」も、この後の「インド怪人紀行」も読んでいるのですが、毎回この身体を張った生の勝負に度肝を抜かれ驚かされ、そしてお腹が捩れるほどにガハハハと笑ってしまうのです。

ゲッツさんや鴨ちゃん達が切り込み突き進んでいく剥き出しの迫力に「馬鹿やってるよ~!」と笑いながらも、ふとベトナムという国の濃度に魅惑され目が離せなくなっている不思議。
ゲッツさんたちの怪人紀行シリーズはガイドブック的でもなく、人生教訓的なものもなく、だのに何故か後を引くのです。
そしてサイバラさんの表紙絵と漫画がいつものごとく、この怪書?に、あだ花を咲かせてくれています。

読まず嫌いできた方がいたら、是非読んで欲しい。
確実に爪痕を残してくれます。

ゲッツ板谷の「怪人紀行シリーズ」

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「 ネコクンの趣味は、星の降る夜に
お気に入りの屋根の上で、ただなんとなく
「星がキレイだな~」なんて
つぶやいてみたりすることでした 

 出典:『眠れぬ夜の小さなお話』原由子  より


今回はサザンオールスターズのメンバー原由子さんの「眠れぬ夜の小さなお話」をご紹介したいと思います。

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これは角川書店から出版された文庫本(絵本)なのですが、「ひらけ!ポンキッキ」内で(1992年~1993年「ともだちでいようね」)放送されていたので、そちらで覚えておられる方が多いかもしれませんね。

登場人物は…
ネコクン
星くん
ヤーサマネコ(ニャーゴくん)
ウサギクン
クマクン
トリサン
リスサン
タヌキクン
ゴンザノスケ
お月さま

猫のネコクンとその友達との心温まるほのぼのストーリー。
原さんらしいほんわかしたキャラクタたちも面白くて優しい気持ちになれます。
絵も味があって良いですよ。
子供にも読んであげたり、一緒に読んだり、勿論、大人も!

現在は絶版になっているようですが、中古本としてなら上のリンクからまだ購入できます。
また、「復刊ドットコム」でも復刊リクエストされています。
素敵な本なので是非復刊して欲しいです。
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「 汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる…… 」

 出典:『汚れつちまつた悲しみに……』中原中也  より


今回は、中原中也の詩集「汚れつちまつた悲しみに……」をご紹介したいと思います。

中原中也といえばこの「汚れつちまつた~」の詩があまりにも有名です。
わたし自身、中原中也の詩の中で好きなものを選ぶとしたら、絶対に入れたい一編です。

中原中也は30歳という若さで亡くなりました。
詩人への道を決意した18、9歳のころの写真をご覧になられた方も多いと思います。
黒帽子を被った中也の大きな瞳は何とも印象的です。

しかし本人はかなりエキセントリックな一面もあって酒乱だったともいわれています。
結婚して妻子もいましたが、我が子に幼くして先立たれ、ショックで精神が不安定になってしまいました。
「また来ん春……」という詩は中也がその哀しみをうたった詩です。
親としての途方に暮れるような、やるせなさが胸を打ちます。

他にも「サーカス」「北の海」「骨」などの好きな詩と、読み返すたびに、また別の詩が心に引っかかってくることもあり、わたしにとっての中原中也の詩はずっと手元に置いて読み返したいものです。

決して長くはなかった人生、挫折や辛い別れの日々、聖人君子などではない欠点だらけの、でもその人間らしさが、わたしを強く惹きつけるのかもしれません。

中原中也詩集「汚れつちまつた悲しみに……」

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